「わたしのマンスリー日記」第13回 人は人を幸せにできる! きっと

人は人を幸せにできる! きっと

 小中学生との交流によって、ようやく今の自分の生き方が周りの人々に生きる勇気と元気を届けることになっているかなと思えるようになりました。私はもともと教育学者ですので若い世代の人たちが健康で明るくそれぞれの人生を切り開いていってくれることを何よりも願っています。ことに若くして難病や障害と向き合って苦戦している皆さんには頑張ってほしい。難病と闘い重度障害を抱えながらも本を執筆してきた私の生き方から生きる勇気と元気をもらったという人がこの世に一人でも二人でも存在しているとしたら、喜んで残された命をその方々のために捧げましょう。
 難病や障害だけではありません。2024年の1月1日に合わせたかのように能登半島地震が発生しました。千葉市に住んでいる私のベッドの前にセットしてあるパソコンも小刻みに震えました。極寒の中瓦礫の下で命を落とした方々の胸中をおもんばかると、いたたまれなくなり言葉を失います。昨年出した『全国水害地名をゆく』(インターナショナル新書)は繰り返し襲う水害・津波に負けず生きてほしいというメッセージを込めた書でした。
 海外に目を向ければ、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦争などによって多くの人々の命が奪われ、罪のない市民が苦境に追い込まれています。
 これらのさまざまな人生苦と闘いながら生きようとしている人々と同じ地平に立って「光の心」を求めたい。今はそれが自分のミッションだと考えています。
 自然災害は被害を最小限に抑えるしかありませんが、病気は医学の進歩によって治すことが可能です。障害は世の人々の意識を高めれば乗り越えられます。そして戦争こそ人の力で食い止めることができます。
「人は人を幸せにできる。きっと」
 そう信じたいと思います。東日本大震災の時「がんばろう! 東北」と言われました。それになぞらえて私は心から叫びたい。
「がんばろう! 人類」
 こんな境地にまで導いてくれたのはALSなので、感謝すべきはALSかな? ——人間万事塞翁が馬。

谷川 彰英 たにかわ あきひで 1945年長野県松本市生まれ。作家。教育学者。筑波大学名誉教授。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。千葉大学助教授を経て筑波大学教授。国立大学の法人化に伴って筑波大学理事・副学長に就任。退職後は自由な地名作家として数多くの地名本を出版。2018年2月体調を崩し翌19年5月難病のALSと診断される。だが難病に負けじと執筆活動を継続。ALS宣告後の著作に『ALSを生きる いつでも夢を追いかけていた』(2020年)『日本列島 地名の謎を解く』(2021年)『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(いずれも東京書籍刊)がある。

(モルゲンWEB2023)

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